水俣病の拡大と規制権限の不行使
水俣病の知見が揃った後も規制しなかったのは違法!権限不行使も国賠の対象になる
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事案の概要
争点
判旨
【原文】
1 国が,昭和34年11月末の時点で,多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上っていると認識していたこと,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源が特定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあったこと,同工場の排水に含まれる微量の水銀の定量分析をすることが可能であったことなど判示の事情の下においては,同年12月末までに,水俣病による深刻な健康被害の拡大防止のために,公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排水等の規制に関する法律に基づいて,指定水域の指定,水質基準及び特定施設の定めをし,上記製造施設からの工場排水についての処理方法の改善,同施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
判決
関連法令の解説
この条文は、公務員が職務の執行について故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合の賠償責任を定めています。本判例では、積極的な違法行為だけでなく、規制権限を行使しないこと(不作為)も一定の場合に同条の「違法」にあたると判示されました。
水質二法(公共用水域の水質の保全に関する法律・工場排水等の規制に関する法律)
工場排水による水質汚染を防止するための規制権限の根拠法です。本判例では、通商産業大臣がこれらの法律に基づいて排水処理方法の改善命令・施設の一時停止命令等を発することが可能であったにもかかわらず、これを行わなかったことが違法と認定されました。
身近な例え
ざっくりまとめ
この事件では昭和34年11月末の時点で、①多数の患者・死亡者が出ていること、②原因物質が有機水銀で特定工場が排出源であることが高度の蓋然性で認識できたこと、③排水の水銀定量分析が可能だったこと、これらが揃っていたんだよ。
それなのに同年12月末までに規制権限を行使しなかったのは、著しく合理性を欠くとして違法だって判断されたんだ。
被害の深刻さと権限行使の可能性・必要性が揃えば、不行使も違法になるというのがこの判例のポイントだよ。
試験対策ポイント
違法となる基準:権限不行使が著しく合理性を欠く場合(裁量の逸脱・濫用)
違法性判断の3要素:①被害の深刻さ、②原因と排出源の認識可能性、③規制措置の実行可能性
注意:科学的知見が不十分な時点での不行使は違法とならないが、十分な知見が揃った後の放置は違法
規制権限不行使の違法性が争われる判例として、宅建業法の監督処分権限不行使(最判平元.11.24)とも対比して整理すること
関連法令
出題年度
関連判例
宅建業者に対する権限不行使
宅建業法の免許制度の目的は「取引の公正確保・円滑な流通」であり、個々の取引被害の直接救済を目的としない 監督権限の不行使は、原則として国家賠償法1条1項の違法にはあたらない 権限不行使が違法となるのは、「具体的事情のもとで権限の趣旨・目的に照らして著しく不合理と認められるとき」という例外的な場合に限られる 注意:「行政が動かなかった=違法・国賠成立」ではなく、裁量の幅と著しい不合理の有無が判断の分かれ目 不作為による国家賠償は成立し得るが、その要件は積極的違法行為よりも厳しく限定される 本件は「裁量権の消極的濫用」論の重要判例として、薬事法権限不行使事件(最判平7.6.23)とセットで理解すること
武蔵野マンション事件
行政指導として寄付を求めること自体は任意性が確保されている限り適法 制裁措置を背景に事実上の強制となっている場合は行政指導の限度を超えた違法な公権力の行使 判断のポイント:①制裁措置の存在、②従わなければ事実上断念せざるを得ない状況、③実際に制裁が実行されていた事実 注意:目的が正当(市民の生活環境保護)で住民の支持があっても、手段が強制的であれば違法 行政手続法32条(行政指導の一般原則・不利益取扱いの禁止)と本判例の法理をセットで理解すること
スナック事件
不作為も国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に含まれる。積極的な加害行為がなくても賠償責任が生じうる。 違法な不作為が認められるには、法令上の作為義務が存在することが前提。義務の根拠として銃砲刀剣類所持等取締法24条の2第2項が示された点を押さえる。 「危害を及ぼすおそれが著しい状況」という事実認定が義務発生のカギ。どんな状況でも保管義務が生じるわけではなく、具体的な危険性の認識可能性が必要。 注意:「不作為は一切国賠の対象にならない」は誤り。本判例はその反対を示しており、ひっかけとして頻出。 調査義務の懈怠も違法性の根拠となる点も重要。状況を調査すれば危険性を認識できたのに調査しなかった点も義務違反として評価されている。
クロロキン網膜症訴訟
規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の「違法」にあたるのは、その不行使が「著しく不合理」な場合に限られる 権限行使・不行使の判断は行政庁の裁量に委ねられており、単に被害が生じたことだけでは違法とならない 違法性の判断基準は「当時の医学・薬学的知見」に照らして行われる。結果論で判断されるわけではない 注意:薬事法上の製造承認取消権限は、当時の明文規定にはなかったが解釈上導かれるとされた点も重要 注意:製薬会社とは和解が成立しており、最高裁で争われたのは国の責任のみである点を混同しないこと
児童養護施設事件
運営主体が民間であっても公務の委託を受けていれば「公権力の行使」にあたる。民間法人の職員による行為も国賠法の適用対象となりうる。 国賠責任が成立する場面では民法の使用者責任は排除される。国賠法が民法の特別法として優先されるため、両責任を並行して問うことはできない。 職員個人の民法709条責任も否定される。国賠責任が成立する場合、被用者個人の不法行為責任も問えない点とあわせて整理すること。 注意:「民間だから民法で訴える」という発想は通用しない。委託の実態が公務かどうかによって適用法が決まる点は頻出のひっかけ。 被害者の救済窓口は国または都道府県。国賠法が適用される場合、被害者は社会福祉法人ではなく都道府県等に対して賠償請求することになる点も確認しておくこと。
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